「駅にて」 黒宮 涼
大学に通っていた頃の事を時たま思い出す??。
あの日は友人達とまともに会話をした最後の日になってしまったが、駅のホームでのあの出来事はよく覚えている。
サークルの帰りで、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
私は一人だけ、電車が逆方向だ。
ホームが二つしかない小さな駅で、サークル仲間達と線路を挟んで対面する。
「おーい!!」
線路の向こうから、友人たちの声がした。
手を振ってきた友人達に向かって、私は手を振り返した。
「電車遅れてるみたい!」
「え! 大丈夫?」
「大丈夫ー! そっちは?」
「こっちは大丈夫だよ~!」
大きな声で会話する。
私は恥ずかしいと声が小さくなってしまうので、頑張って大きな声を出して言葉を返した。
こんな風に誰かと会話をしたことなどなかった私は、恥ずかしい反面、何だか嬉しかった。
高校生の頃、離れたホームにいる友人と手を振りあったことはあったが、その時は大きな駅だったので大声で会話などしなかった。だけれど今は違うのだ。小さな駅で、他の人がいるところで、大きな声で会話をしている。
ドラマとかでよく見る。
実際にやると恥ずかしい。
知らない人もいるのに、友人と私達だけの会話を大声でする。
多分きっと、二度とないこの時。
いっそ線路に降りて向こう側へ行こうか。そんなことを思っていたことを覚えている。
私一人だけ、普通に電車に乗って帰っていいものか。そんなことを心配したことを覚えている。
「あ、電車来たね! ばいばーい!」
「ばいばい!」
「またねー!」
「うん! また!」
声が裏返ったかもしれないと思いながら、電車に乗る。電車から仲間達を見つめる。もうすっかりこっちのことなど見てはいなかったけれど、やはり一人だけ帰ってしまうのは辛かった。
私は自分の家が近付く頃に、皆にメールを送ってみた。
電車来た?
家に着いてから一人ずつ返って来たメールは、皆の連携メールだった。
全然こなーい。
皆同じ文章だったので、私は一人家で笑い転げた。
こうやって皆で打とうって、相談して決めているところを想像すると、堪らなく笑いが込み上げてきた。
皆ごめんね、一人だけ笑っててごめんね。
早くお家に帰れるといいね。
笑ったことは内緒にして、そんなメールを皆に送った。