「浜辺の結婚式」 黒宮涼
海を見るのが好きだ。例えば車の中だったり海の近くにある旅館から見る海も良いが、一番はやはり浜辺に立って真近で見ることだ。いつか見たテレビドラマで海に向かって叫ぶシーンがある。思わずそれの真似をしたくなるのだ。恥ずかしいから叫んだことはない。
今まで見たことのある印象深い海と言えば、新婚旅行先のバリ島で見た海だ。ホテルが海のすぐ近くなので宿泊期間中、どこにいても海が視界に入ってきた。朝も昼も夜も、見ようと思えばいつでも見ることができた。部屋のベランダにて潮風を感じるのもまた良かった。
高校生のときに修学旅行で行った沖縄の海も良かったが、それとはまた違った良さがあり、何よりも一番印象に残っている出来事と言えば、浜辺で結婚式を挙げている人たちがいたことだ。
「あれ、結婚式やってるよ」
「本当だ。すごいね。近くまで見に行く?」
と夫が言ったけれど、関係者以外立ち入り禁止らしく仕切り代わりか縄が張られていた。考えてみたら当たり前かもしれない。無関係の者が入ってきたら困る。結局、少し離れたところでその結婚式を見つめた。
白いウエディングドレスに身を包みながら歩く花嫁。近くで見られなかったので顔はわからないが、きっと凄く綺麗な人だったと思う。祝福している人々が色とりどりの花びらを、新婦とその横を並んで歩く父親に向かって、下から上へ投げ上げる。フラワーシャワーというらしい。花びらが舞う。時折、私たちと同じくその結婚式を遠くから見ている人の口笛が聞こえたりした。これが外国のノリか。と思った。
私はその結婚式を見ながら、つい数日前に挙げた自分たちの結婚式を思いかえしていた。私たちは神社での挙式だったが、式場を選んでいた時期に結婚情報誌で目の前の浜辺と同じ光景の写真を見た。新郎新婦の背後に広がる青い海。別の世界の人々のような気がしていた。でも今はこうして同じ場所にいる。なんとも不思議な気分だった。浜辺の結婚式は着々と進み、新婦と新郎は神父さんの前に立っていた。神父さんが何かを読み上げたり書いたりしている姿が見えたが、まだ時間がかかりそうだったので私と夫は途中でその場を後にした。名残惜しい時間だった。浜辺の結婚式なんてこんな機会でもなければ見られることはないのだろうなと思った。だから本当によかったと思う。今思い出しても、バリの海は素敵で、あの浜辺の結婚式も最高に良かった。海の近くでの食事も美味しかった。
夜には野外ステージで開かれていたショーを見ながら食事した。一週間近くいたので、他にもここでは語り切れないほど多くの体験をした。周りは外国人ばかりで怖くて、行く前は本当に気が重かった。日本語を話せる人も少しはいたけれど、全部通じるわけでもない。正直なところ新婚旅行は国内でもいいぐらいに思っていた。海外旅行が好きな人は、凄いと思う。夫がどうしてもと言うので海外へ行くことにしたけれど、私は乗り気ではなかった。案の定、留学経験のある夫に頼りきりになってしまった。私はホテルに着いて早々体調を崩した。迷惑をかけてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど海を見た瞬間、そんなものは吹き飛んだ。波が私の嫌な気持ちを全部さらっていった。泣きそうになると同時に、叫びだしたくなった。やはり恥ずかしいのでやめておいた。
あの海の記憶が行って良かったと思わせてくれるから今でも海が好きなんだと思う。(完)