「ピンポイント」 真伏善人
プレゼントとは特別な人に贈り物をすることですが、大切なのは受け手の気持を汲みとることにあります。贈り手と受け手、この両者はプレゼントによって関係を円滑にするだけでなく、二人と関わりある人たちとも円満になれる効果を発生させなければ意味をなしません。
そこで、この行為を気持の重要なやりとりでもあるということで捉えてみますと、例えば野球の試合における投手と捕手の間もそのような関係にあるのでしょう。
テレビ画面で試合を見る限り、圧倒的に贈り手(投手)と受け手(捕手)が多いことからもそれと知れます。受け手の表情は被った鉄仮面の奥に隠れてあらわになりませんが、贈り手の表情、動作は受け手のサインによって、変化が微妙であったり大仰になったりします。
九回の裏、得点は三対二でビジターのリード。しかしワンアウト満塁の大ピンチ。バッターはホームチームのマッチョ四番。
受け手ー外側の高めに早い球が欲しい
贈り手ーエッそんなんでいいの?
受け手ーその辺が妥当やと思うよ
贈り手ーおやすい御用やで
受け手ーしかし、奴(打者)のことやからなぁ
贈り手ー何を迷ってんの
受け手ーん、いやこっちのこと
贈り手ーホントは低めの球が欲しいんやないの
受け手ーわかるか?
贈り手ーはっきりせえや
受け手ー暴投があるからなあ
贈り手ー信用できへんのか
受け手ー前の試合のこと忘れたんか
贈り手ーあれはサイン違いやないか
受け手ーちゃんとサイン通りにくれるか?
贈り手ー当たり前やないか
受け手ーよし内側低めに落下する球をくれや
贈り手ーくれじゃないやろ、頂戴のサインだせや
受け手ーはいはい頂戴、たのむで
贈り手ー最初からそこに欲しいって言えや、ボケッ
さあワンアウト満塁、一打逆転サヨナラのチャンス。しかし内野ゴロゲッツーで試合終了もあります。ようやくサインにうなずきピッチャーセットポジションから第一球を投げました。インサイド低め、おっとスライダーかフォークか、ワンバウンドを空振り、ああキャッチャー大きく後逸、バックネットまでボールが転々としています。何とキャッチャーが転倒だ。ピッチャー呆然、俊足ランナー二人ゆうゆう生還サヨナラ、サヨナラです。
《プレゼント関係の間にはこんなことも起こりうる》
関係サヨナラのとんでもないリスクが潜んでいるということをよく考え、受け手はあやふやなサインを贈り手に出すことを慎まなければ、決してよい関係を保ち続けることはできないと思わなければなりません。
サインのピンポイントに贈るということは難しい事です。今日に至るまでの相手の居住周り、職場環境、とりまき、趣味、嗜好などの変化を細かく洗い出します。それらを手がかりにして厳選二品目。最後は神様決定ガラガラポン。それがピンポイントのプレゼントです。
で、当たったとすればこのゲームの九回裏は四番打者、初球ボテボテの三塁ゴロ、ホームゲッツーで円満に試合終了皆万歳となったはずであるのだけれど…。