「家族とは」 牧すすむ
夜のゴールデンタイムによくケータイが掛かって来る。然もテレビ電話だ。
画面を開けば孫の顔のアップ。観ていた番組は即中断。
「おじいちゃんおばあちゃん、元気?」で始まると思いきや、いきなりの本題。
「ねぇねぇ見て、こんなこと出来るよ」と、持っていたケータイをママに渡しバレエのポーズ。音楽に合わせて踊りだし、部屋はたちまち舞台となり所狭しと跳ね回る。当然それを追うママカメラマンは大変である。ひと通り踊り終わっての決めポーズに、観客としての拍手と「すごいねー! 上手だねー!」の誉め言葉は不可欠。得意満面の孫娘は「もう一度見たい?」とのたまう。ここでママ(娘)の登場。「もうすぐ発表会があるからね」と笑う。
小さい頃からバレエを習っていて時々発表会があるらしく、その都度家族ぐるみで鑑賞に出掛けるという。パパとお兄ちゃんのネクタイ着用は規則であり、ママも気合のドレスアップ。イギリスの発表会はなかなか大変だ。
娘と話していると突然画面ににこやかな顔が割って入りパパの参加となる。
「オトウサン、オカアサン、ゲンキデスカ? ワタシハゲンキデス」。たどたどしい日本語での挨拶はいつもどおりだ。まあ、こちらの英語も危なっかしいのでお互い様ではあるけれどー。
日本とイギリス、遠く離れていても時代の有難さ。テレビ電話でお互いの様子をリアルタイムで確認することが出来る。夢のような世界の中で自分達は生きているんだな! と改めて実感してしまう。科学の力に感謝である。
又、次男家族もお嫁さんがこまめに動画やメールを送ってくれたりテレビ電話を掛けてくれたりするので、孫や息子のことが手に取るように分かり妻と二人喜んでいる。
長い海外生活を終え、昨年ロスアンゼルスから帰国し今は千葉県に住んでいるが、ご多分に漏れずコロナ騒ぎでテレワークが増えたという。生活の違いで何かと戸惑いはあるようだが、もし帰国のタイミングが今年にズレていたらと思うとゾッとする。カリフォルニア州はコロナウイルスの激震地なのだから、本当にラッキーだったと思う。ステイフォームで幼稚園は休み、毎日が子守状態というがイギリスも同じく休校中、娘の話によるとこのまま九月の新学期まで開校が伸びそうだワ。と、ため息交じりに苦笑していた。
一方、長男は私の仕事を継いでくれていることもあり、目と鼻の先に居を構え毎日顔を合わせているし家族皆のことも分かっている。孫達もかたみに顔を見せてくれるので一緒に食事をする機会も多くコミュニケーションはよく取れていると思っている。特に一番上の孫娘には誕生を過ぎたばかりの子供がいて、自分にとっては曾孫。時々連れて来てくれるのが待ち遠しい。
とは言え、遠くにいても近くにいてもやっぱり今はコロナが心配の種、いつも頭から消えることはない。世界中の誰もが望む幸せ、それは家族の安泰と大きな愛に満ちた未来だ。一日も早い悪の終息を心から願って止まない。
話は変わるけれど、近々我が家に新しい家族が出来そうでワクワクしている。毎日決まった時間に夫婦(?)で訪れ、早朝に出て行く。実に律義者である。と言ってもこれはツバメの話。
このところ我が家の軒下にカップルと思われる二羽のツバメが居着き、夕方暗くなる頃やって来て日の出と共に飛び立って行く。まだ巣作りは始めていないが、やがてここで新しい命が誕生するかもしれない。我が家にとっては初めてのことである。ツバメの営巣は縁起が良いとも聞くので楽しみも大きい。今日も二羽が仲良く軒下に並んでいた。これも新しい家族、早く可愛い孫達(?)の顔を見たいものだと、妻と二人胸を躍らせている。
コロナの暗いニュースで明け暮れる中、彼らは我が家に舞い降りてくれた天使なのかもしれない。と、心底そう思いながら~。 (完)