寓話(3)「雪の中のファンド」
花咲か爺は銭をばらまきません
金の花も銀の花も咲かない世界で、にんまり笑っているばかり
騙し白金、金鱗まみれ、夕焼け燦々、地球を覆え
削れ、削れ、中流意識を打ち崩せ、百姓意識に引きもどせ
財宝掻き集め、専用ジェットで世界一周
今、世界は俺のもの、大観覧車の天辺気分で爽快さ
ゴールド、シルバー、プラチナ、パラジュウム、粗糖に大豆に小豆
石油に為替、まだまだあるぞ、何でも銭の種だ
明日は証券、インターネット取引だ
売って売って売りまくれ
買って買って買いまくれ
心なんているか
負ける奴が悪いんだ
為替相場で一国だって潰れる時代
企業なんてちょろいもの
俺はファンドの王様になる
六本木ヒルズを拠点に、ユダヤ系資本を手本に
何でも食ってやる
バブルで弱ったゴルフ場やホテル、そして企業を
政府と組んで外資が手に入れたノウハウを取得し
ビッグと言われるようになる
ちぇっ、外は何年かぶりの積雪だ
埋もれて行く街街
脱色してゆくビルの群れに街路灯が
やけに明るく輝くぜ
俺を嘲笑うように光っている
深深と降る雪に、幼い頃の貧しさが思い出され
母の温もりが、やけに胸を熱くする
ジングルベルの音に、クリスマスにもらった
菓子の入った大きな靴が懐かしい
あの頃はセンチメンタル、ジャアニーのジャズが
流れていたっけ
もうすぐ夜が明ける、今日は月曜、又、始まる
売った買ったのカジノ経済が
コンピューターミスで何十億かの金を手にした奴がいる
宝くじさ人生は、一瞬の夢に賭けるのさ
雪よ、雪よ、日本中の寝覚めの床に降り積もれ
二十四時間、世界中の相場の動きに眠れない
ネットに翻弄される俺の脳味噌いっぱいに
数字がはちきれそうだよ
人肌が欲しいのかい、女の柔肌が
弱気になった俺にボジョレで乾杯
人気のないオフィスで、修羅場を待っている俺は
リングに上がった新人ボクサーのように震えている
粉雪、細雪、乱れ、狂え、舞い踊れ
安っぽいイルミネーションなんて包んでしまえ
闇に落ち込んだ俺を樹氷と変えろ
そうだ
銭咲か爺は、花を咲かせたかい
白銀、金鱗、無色透明、何の色
降り続く雪は何故か気高く
花嫁の綿帽子のように白いじゃないか
アベマリアの曲に乗せ
この世のすべてから色を奪ってしまえ
雪よ
2005・12・20