「AIは何者」 牧すすむ
今回のテーマは我々世代にとって最も苦手とするものだ。AI、よく耳にする言葉ではあるが実体は曖味である。辞書を調べると「人工知能」とある。つまりロボットということだ。確かに現代社会においてロボットは不可欠で、その全てがロボットに助けを求め、手を借り成り立っている。ある意味、人工知能が先を行く時代にもなっていると思う。
我々世代を始め、そもそもAIとは何者なのか、正しく答えられる人達がはたしてどれ位いるのだろう。知らず知らずの間にAIは全ての家庭の中で共存しているのだ。
思えば私が初めてロボットと対面したのはかの有名な「鉄腕アトム」だった。少年雑誌の連載漫画に登場する正義の味方の人型ロボットで、作者は漫画界の巨匠「手塚治虫」氏。
少年の姿で悪と戦い空を自由に飛び回り、無敵の強さで人々を守る。憧れのヒーローに心を躍らせて読みふけったものだ。
アトムは完全に優れた人工知能を有し、心を持ち会話し、善悪を判断する。そして自分が成すべき事を知っていた。真のスーパーヒーローだった。
その後も様々なロボットが漫画、小説、映画等に登場し時代時代を彩った。全てが正義の名の元に少年少女のみならず、大勢の人々の心に夢と希望をもたらしてくれた。
だが然し今はどうだ。世の中には有りとあらゆる分野に於いてAIが幅を効かせ、言い替えればAI無しの世界など考えられなくなってしまった。便利と不安、善と悪が入り乱れ人々の心から理性を奪い取ろうとさえしているのが現実。もはや人が作り出した物に人が支配されつつあるのだ。今こそ皆がそのテーマに真剣に取り組まなければならない時代だと思う。
そういえば私がまだ十代だった頃、バンド仲間の友人と二人で観た映画がある。タイトルは「2001年宇宙の旅」。五名の宇宙飛行士がロケットに乗って遥かな木星を目指し、旅をするという物語だった。只それはもう半世紀以上も前の事なのでそれらの記憶は極めて断片的であり、それまで私が経験した事の無い大きな驚きと感動を覚えたものでした。
五人の飛行士を乗せたロケットは無事に旅立ったが、ロケットには「HAL9000」というコンピューターが搭載されていて、大統領から彼だけに秘密の指令が言い渡されていた。
旅は順調だったがある時から飛行士達の間でこの旅行を疑問視する声が出始めた。指令がバレることを恐れた「ハル」は飛行士達を殺すことを計画し実行に移す。船外活動で外に出た飛行士の命網を切り一人目を殺し、次いで仮眠中の三人を殺害した。
一人になった主役のデビットは果敢に「ハル」に立ち向かい、コンピューターの機能を一つずつ壊していく。「やめてくれ、デイヴ、やめてくれ」と訴える声をよそに次々と彼を壊していく。「やめてくれ、頼むよデイヴ。私は怖い、怖いよデイヴ、デイヴ。あぁ、頭がボヤける、どんどんボやける。やめてくれデイヴ、怖いよ、怖いよー」。だんだん小さくなっていく彼の喘ぎ声が今も私の耳の奥に残っている。
先にも言ったように半世紀以上も前に観た映画なので思い違い等が少しはあるかもしれないが、今の時代は生活の隅々にまでAIが溢れAIの無い暮らしは想像も出来ない。
ただ便利であればある程それを悪用しようとする輩(やから)達が現れる。つまりそれらの人間が従順なAIを裏切り汚しているのだ。実に愚かなことだ。
AIは主を選べない。それだからこそ正しく付き合わなければならない。永遠に心の通い合う真の友人でありたい。いや、そうあるべきだと両の手を合わせて祈っている今日この頃の私なのである。(完)