新連載・地球一周船旅ストーリー〈海に抱かれて みんなラヴ〉8月14日
【写真は真っ青な群青となって迫る〈光る海〉と、船内に展示された作品の数々=オーシャンドリーム号8階フリースペースで=】
デッキに出ると、海は既に私の心と同じ群青色になっていた。
目の前に真っ青な日本に通じる〝うみ〟が広がる。そこには美雪(舞)がいる。日本が目前に近づいている。
昨夜は本欄をアップしたあと、社交ダンス発表会の反省会も兼ねキムさん(木村さん)やヨシさん、タカイさん、そしてヨウコらと居酒屋「波へい」で飲む。「波へい」のスタッフ、アリ(インドネシア)が私に近づき「もう少しで横浜。ヨコハマニツクト、イガミサン、イナクナッテシマウ。アエマセン。トテモ、トテモサミシイデス」と何度も何度も繰り返すので、こちらまでが切なくなってくる。この世で偶然お会いしたアリたちとの別れの日が刻々と近づいている。
きょうも午後4時半から社交ダンスチームのお疲れさま会が8階スターライトであるというので出て踊ってきた。そして、午後5時半からはメインレストランでのフェアウェルディナーに、引き続きブロードウエイであったフェアウェルパーティー&福島×ベネズエラオーケストラ・メモリアルコンサートにも。きのうダンスで着た、黒の上っ張りに半そでシャツ姿に着替えて出た。
合間にピースボート事務局に顔を出し、私が発信している「伊神権太が行く世界紀行 平和へのメッセージ/私は今その町で」の〈ヨーロッパ前編〉と〈ヨーロッパ後編〉の映像編集の進行状況を映像スタッフの高木應(あたる)さんに聴いたが「ピースボート本来のイベントやら企画やらに追われて映像完成はどうしてもその次になってしまう。でも、何とか下船までには間に合わせたい」とのことだった。
実際、ここまできたら、あとは1日も早い完成を願うほかない。この調子だと、どうやら横浜到着(17日)直前に滑り込みで出来上がるかどうか微妙なところだ。原稿出しとビデオの取り込みは、とおの昔に終わっているので編集さえ始まれば完成はすぐだ。ここまで来てしまったのだから、待つほかあるまい。きょうは「平和へのメッセージ」最終回〈中南米編と総括〉の原稿も書き終えた。というわけで、映像スタッフの高木應さんの多忙ぶりを前に逆に「ある程度の遅れは仕方がない」と自らに言い聞かせている。
このほか、この日は午後8時から8階中央フリースペースがダンスフロアとして開放され、あの愛媛のベレー帽レディー、ニシさんが一緒に踊ろうよ、と誘ってくださったので少しだけ踊った。
この夜、船内全体が〝帰り船〟一色の雰囲気に染まるなか、フェアウェルディナーでは乗船以降私たちの接客業務に当たった外国人クルーズが全員総立ちとなり〈We are the world〉を歌ってくれた時には、アリや私の部屋のハウスキーパー・エドウィン(フィリピン)、イワヤン、スリ(インドネシア)らお世話になったクルーの顔一人ひとりが目の前に浮かび涙が出て止まらなかった。
またパーティーでは、船長の「皆さん! 私たちを忘れないで」といったあいさつに続きピースボートの田中洋介さんの司会でクルーズディレクター・井上直さんが阪神大震災に病んだ人々を勇気づける「満月の夜」を、3・11東日本大震災の被災地への思いを込め、沖縄三線で弾き語る熱唱もあった。
船内を歩いていて、いつもなら掲示されているはずの8階フリースペース一角の航路図が見当たらず、同じ個所にこんな文書が掲示されていた。
「お知らせ 心ない人により、海図を汚されました。海図は航海士にとって大切な物の1つです。申し訳ありませんが、今後の海図の掲示は中止いたしますので皆様ご了承下さい 2014年8月14日 狭間俊一」
最後になってなんたることだ。悪いヤツはどこへ行ってもいる、と思うと、せっかくのこれまでの地球一周の船旅が毒された気がする。それにしても、大切な航路図に傷をつける、とは。一体、犯人はどこのどいつなのだ。それに「やはり乗客サービス面から言っても海図の掲示は最後まであった方がいい」と、素朴な疑問が頭をかすめた。そうは言っても日本は目前だ。もはや、海図を見る必要がなくなったことも事実だ。