「色VS私」
黒宮 涼
私は高校三年間を、色と共に歩んだ。
時に喜び、時に悲しみ、私は色と共に歩んできた。
学校がデザイン関係ということもあり、本当にたくさんの絵を描いたのだ。
よく使う色は白。
原色と混ぜることが多いので、すぐに絵具は空っぽになった。
一度作って無くなった色は、もう作ることはできない。
色を塗るのにも、ムラなく塗らなければならない。
私にとってそれは、まさしく戦いだった。
「色はたくさん作っとかないとだめだよ」
高校二年の夏休み。
すぐ色を切らして微妙に違う色を塗り始めた私に、母が言った。
「え」
絵具がもったいないなと思っていた私は、その母の言葉に納得がいかなかった。
どうしてたくさん作らなきゃいけないんだろう。
その疑問が解かれるのは、すぐのことだった。
しかし、私はその時もう一年以上色と向き合ってきていた。
「ムラが少なくなった」
私はそのことが少しだけ嬉しかった。
と同時に、何故今まで気づかなかったんだと少し自分を恥じた。
私と色に関する戦いは、これだけではない。
「この色合いはちょっと……」
苦い顔をする友人。
「や……やっぱり?」
同じく苦い顔をする自分。
そんな気がしていたが、一応人の意見を求める。
私は色彩感覚がない。
配色センスがないのだ。
しかし、このまま配色を苦手のままにしておくのは嫌だと、高校二年の冬、私は色彩検定を受けることにした。
まずは3級だ。
難しいと聞いてはいたが、本当に難しかった。
授業後に補習を受けて、勉強をして。
もし受からなくてもやっぱり私には無理だったのだと思えばいい。
そうして逃げ道を作っておけば、気楽に勉強ができた。
試験当日、私は緊張していた。
やれるだけのことはやった……つもりでいた。
ただ、自分にどうしても自信が持てず、どうせ受からないだろうな、と思っていた。
試験方法は、マークシート。
そのことだけが、私にとって唯一の救いであった。
結果は……合格だった。
私はその事実が、最初信じられなかった。
だけど学校で合格認定のカードを受け取ったとき、ああ本当に私は三級合格したんだ。
と、実感した。
しかし、それは私の中で少しの自信を残しただけで、あとは何も変わらなかった。
「ねぇ……この色の組み合わせ、どう思う?」
「うん……いい……んじゃない……?」
このやり取りが何回も繰り返された。
結局、私は色というものに振り回されるのだ。
そしてこの戦いは、高校三年の夏、再び訪れた。
きっかけは担任の先生の一言だった。
「二級受けたら? もし合格しなくても、もう一回冬の試験があるし」
私は正直迷っていた。
確かに三級より二級の方が難しいし、得をするだろうけれど……。
またあの時のような苦しい色との戦いが始まるのかと思うと、どうしても一歩引いてしまうのだ。
けれど……。
「やって……みようかな……」
どうしてそんな気になったのか、今はもう忘れてしまったけれど、きっと三級を合格したという事実が、私の背中を押したのだと思う。
しかし、いざ補習を受けてみると、三級の時よりも桁違いに難しかった。
理解のできない言葉が三級の時よりも多く、私はすっかりやる気を失っていた。
テキストを読んで理解しようとしても、どうしても理解ができないのだ。
もう……だめだ……。
私は今度こそ本当に落胆した。
そんな状態だったものだから、当然受かるわけもなく。
仕方がないかぁ。
と思うことにした。
結局、私と色の戦いは、高校を卒業するまで延々と続いた。
しかし、よく考えてみるとこれから先もずっと私と色の戦いは続いていくのだ。
例えば、部屋の模様替えだったり、服のコーディネートだったり。
この世の中には。色が満ち溢れているのだ。
色との戦いは、免れないということだ。
色VS私。
きっと一生、この戦いは終わらないのだろう。