詩小説「FLQX」
夏の朝
といっても
すでに荷を積んだトラックが
どんどん物流倉庫に入ってくる
その少し離れた西側に
二階建てのおんぼろアパート
午前九時
住人
高木達夫は寝ぼけ眼でドアを開ける
中肉中背地味顔で
どこにいても目立たない
夏の盛りだというのに
今日も青い格子縞の長そでシャツ
勤めていた会社を首同然
失業保険でしのいでいる
二度目だ
倉庫の横の生垣づたいに
高木は歩く
のろのろと
いつものように側溝蓋の横
角を左に折れると
前方の地べたに白いもの
何気なく近づき目を落とす
なんだ?
手のひらサイズのリングノート
開かれたままで蓋の上
捨てたものか
置いたものか
それとも知らずに落としたものか
足を止めてあたりをちらり
腰を折ってどれどれと
目を凝らしてじっと見る
ボールペンでしっかりと
力を込めて書いたのか
大きな文字がぎっしりと
アルファベットに数字がいくつか
これは
高木は背筋を伸ばして倉庫を見る
ここにいてはまずいかも
そっと離れて知らぬ顔
仕事で使うコードナンバーか
プライベートの情報か
あるいは
闇社会の暗号か
そんなバカな…
(続く)