詩小説「FLQX」(9)(10)
(9)
ともかく
これが読めたら
電話
あと6日
それにしても
ーフルキュゥクス
これは
どう考えても
日本語ではない
語尾でーはありだろう
が
語頭でーは考えられない
数字のつもりか
しかし…
最後…
もう一度読む
8行目と
9行目が意味不明
これが読めたら
電話しろ
ふーむ
やはり
何かの匂い
冷めたカップ
残りのコーヒー
続けざまに二度すする
はや夕暮れ
昨日と同じように
夕暮れが来る
いや
昨日からずーっと
夕暮れだ
ビールを片手に考える
もう片手には
文庫本の表紙裏
コレガヨメタラデンワシテネ
アト6ニチヨ
あと六日で
遺失物法違反
とでもいうのか
ケーサツはごめんだ
ついこの前
競輪場の近くで
職質
交番に同行
身体検査
これが仕事か
ムカつく
だから
8行目と
9行目と
ーフルキュゥクス
か
うーん
意味不明プラス
意味不明
ーフルキュゥクス
は
ん
まてよ
ーは語頭じゃなくて
マイナスか
じゃあ
計算式
FANATAKORELKARA
プラス
IQIKOTOAXRUYO
マイナス
FLQX
そうかFLQX
を
塗りつぶしてみる
イコール
アナタコレカライイコトアルヨ
おおお
なんだこれは
一発回答
奇跡に近い
しかも
イイコトアルヨ
いや
奇跡だ
さあもう一本
自分に
乾杯 乾杯
表紙裏のアルファベット
まじまじと見る
ワタシハミカ
アナタノコトシテルヨ
女か
しかも
外人?
イイコトアルヨ
ふーむ
今日はこれまで
頭が
頭が
疲れた
マジで
だからもう一本
(10)
今日も朝から日差しが強い
そんなことを
気にしている場合か
まだ八時
腹が減って気力が湧かない
買いだめラーメンも
底を尽き
仕方がない
まずは
冷たいウオターでも
そして
コンビニでおにぎりでも
と
アパートを出る
あの道を通れば
ミカという
たぶん
女がどこかで見てるかも
ならば
駐車場まで右からの遠回り
こんな時間に
ここを通るのは
記憶がない
駐車場には車が二台
まだ出ていない人がいる
白い車体のハイブリッド
横目にしながらハンドルを切る
幹線道路を東に進み
次の信号を左に曲がる
GSの隣の隣がいつものコンビニ
おにぎり二つにボトル茶を
車の中で黙々と
頭の中は
たぶん女の
ワタシミカ
あのリングノートに
謎めいたアルファベットを
忍ばせて
分かったら電話せよ
イイコトアルヨ
って
目的は
アナタシテル
のアナタにある
遺失物法をちらつかせ
これは
どうしても連絡せよ
ということだ
コンビニから出る
幹線道路に戻り
向かう先はいつものカフェ
薄めのコーヒーをすすりながら
ため息ばかりを繰り返す
どうしてこんなことに
巻き込まれた
ワタシシテル
ふざけるな
シテルじゃなくて
シッテルだろう
しかし
遅かれ早かれ
の
ことならば
今晩
09010345###
するしかない
夜のとばりが下りた
七時半
覚悟を決めて
携帯を
09010345###
やや間があって呼び出しコール
耳を澄ませて目線を泳がす
動悸音が耳の奥から
と
モシモシミカヨ
早口で高い声
あ
あのリングノートを
ハハハ
アナタアタマイイ
ゴウカク
ジャアネエ
アシタ9ジ
チュシャジョコイ
イイナ
アサ9ジヨ
ワカタ?
一方的にしゃべり
切れる
まじまじと携帯を見る
本当にこの女
外人か
もう
なるようになれ
コンビニ弁当を広げ
缶ビール
のどに異物ができたよう
つっかえ乍ら
落ちていく
今夜は
とても
眠れそうにない
(続く)