「家族という幸せ」  黒宮涼

 父の六十歳の誕生日を皆でお祝いすることになった。最初はどこかへ泊まりの旅行に行こうという話だったが、行き先が決まらないうちにどこも予約でいっぱいになってしまっていた。色々あったが日帰りで、海の近くにカニを食べに行くことになった。この日帰り旅行には、両親はもちろんのこと、祖母と姉二人の家族。そして私たち夫婦が参加した。

「こんな風に祝ってもらえることはそうない。幸せなことだと思う」
 父の言葉に、確かにそうだと思う。私もこんな日が来ることを想像していなかった。カニを食べながら思う。やっぱり家族っていいなぁ。
 私にとって幸せってなんだろう、とずっと考えていた。結婚する少し前までは自分は幸せになってはいけないと思っていた。けれどそれは違うと姉が教えてくれた。夫が教えてくれた。私は幸せになることを許されたのだとその時は思ったが、それは違う。私自身が幸せになることを恐れてそれを許さなかったのだ。幸せになったら不幸になったときの反動で心が壊れてしまいそうだと思っていたからだ。

「ねぇねぇ。もう一回。もう一回」
 スマートフォンで動画を見せると、姪っ子二人が映像と音楽に合わせて踊り始める。走り回る。
「こら。危ないでしょう」
 母親に怒られながらも走り回る。その姿が面白くて、私は思わず笑ってしまう。いつもこんな調子じゃあ、姉ちゃんも大変だ、と会うたびに思っている気がする。こんなふうに自分がはしゃぎまわっていたことを、姪たちは大人になった時に覚えているのかなと、ふと考える。私たちも昔は親戚と集まって旅行したりしていた。それと同じことを今している。あの頃も楽しかったが、今も楽しい。姪たちの成長を見るたびに顔が綻んでしまう。

 これが一つの幸せなら、もう一つはこの日に家族が全員集まれたことだ。両親が共働きだったためか、子供の頃から寂しさをいつも感じていた私にとって家族と一緒にいることが何よりも幸せなことだった。そんなことにこの旅行から帰るまで気づかなかった。幸せについて考え始めるまでただ何となくな毎日が幸せなのかもしれないと思っていた。それは多分間違ってはいないが、もっとはっきりとした答えが家族だとわかった。

「家族には何でも話せるでしょ。僕はその家族になりたいんだよ」
 まだ交際していた頃、いつだったか、夫が言っていた。この言葉が私の中にずっと残っている。自分の思っていることが伝えられなくて、何も言えなくなって泣き出した私に投げかけてくれた言葉。どうしてあんなに嬉しかったのか。その時は、理由がわからなかった。けれど、きっと家族というものが私の中で一番大きな存在だったからなのだろう。夫は今その一員になっている。  (了)