詩「白い翼」
孤独なビルディングの森
人間の溜息の消えた街角
陽はまだ昇らず
ガラス窓たちは冷たい
幾何学的に構成された舗道で
白い鳩が眠っている
静かに瞳を閉じ
翼は我が身をかばうように広げ
もう苦しむことはない
鳩は遠い過去で故郷を捨て
群れをなして
みずからの翼で広大な空を渡り
あたらしい世界で安息した
たくましく生きる本能のちから
それは遺伝子の本質
遺伝子はダイナミズムに無限
種の保存は偉大なるパラダイム
大自然の勢いは止むことがない
白い翼は静寂に包まれ
鳩はその運命を悟る
群れを離れ
愛するように大地へと落下する
巡る運命と去る運命
それは波のようで人も同じ
都会の群集は波の渦に呑まれ
誰もが悲しみ喜びにざわめき
足元の白い鳩を忘れている
ビルディングの壁に陽が映えて
喧騒は遠くに静かな街角
誰かの手がそっと白い翼を抱き上げる